麻紀とバトンタッチした恵利花がコルスに戻ってから、数日経った頃。
「みんな、お疲れさまー」
ラストオーダーをこなした後、歩きづめの信一達に俺はねぎらいの言葉をかけていた。
「ねぇ、…ちょっと話があるけど、いい?」
ロッカールームへ向かう途中、エリカが背伸びする様な仕草で耳打ちしてきた。
「じゃ、お前先に車乗ってろよ。 俺、集計が残ってるから…」
「あら、私が済ませておくわよ。
彼女、何か込み入った話がありそうじゃない?」
「オーナー! いついらしたんですか…?」
「そんな事より、早く着替えてらっしゃい」
「済みません、…お言葉に甘えさせて頂きます」
渡りに船、とばかり後を手島美和に託し、俺は着替えると真っすぐ駐車場へ向かった。
「リョージ、あのね……」
「どうした?やけにモジモジしてんじゃん。
もしかして、……で、出来ちゃった…のか?」
「も〜…違うよ、エッチ!」
「何赤くなってんだよ」
「バカ… あのね、ウチの学校にエミリさん来たんよ」
「エミリだァ? 桜木か」
「うん、…あたしに、モデルやらないか、だって」
「で、どうする?」
「嫌。
だって、…リョージとこうして逢えなくなるもん」
子猫の様にギュッとしがみ付きながら言い募るエリカ。
俺は彼女の髪をそっと撫でてあげた。
「それと…」
「何だ?」
「女優の井沢美紀とか久野ゆかりまで、あたしの顔見に来たよ?」
「お…お前、アイツらから話を……」
「聞いちゃった〜っ♪」
全員、俺、倉沢諒司の元カノ…である。
「でねぇ、この間の霧島さんが、何か裏で手を回してるんだって教えてくれたんよ」
「そうか…。
やっぱ、あのオヤジ何か企んでやがったか……。
あれ? …何笑ってんだよエリカ」
「むふっ♪〈達人〉の口説き方じっくり聞いちゃったしぃ〜」
「コラッ!おめーわっ!」
ちょうどその頃、ラットラーの取材記事の載ったサウンドライフが発売され、思わぬ話題となっていたのである。