自分の夢を遮ったのは、秋にしては寒すぎる部屋の冷気と、窓から情け容赦なく降り注ぐ太陽の光だった。この太陽が自分が孤独であることを知らしめてくれる。自分は朝の太陽が嫌いだった。
「今日も仕事か…」
自分は仕事と言うキーワードで連想されるのは、自分の意中の娘“かえで”だった。同じ職場で働き始めて、早いもので3ヶ月が経った。“かえで”は年下だった。自分が今の職場に入った頃の“かえで”の笑顔は、癒しと言う言葉が当てはまりすぎるものだった。その笑顔に惹かれる自分。仕事の喧騒の中で光輝く満面の笑み。寒空の中で暖かく光輝くシリウスのようだった。
「…はぁ。」
自分は“かえで”に会えることは心の何処かで嬉しく思えていた。しかし、その気持と相反し溜め息が出る。そして、その自分の矛盾に「…ふっ」と冷めた笑みを浮かべる。
20分程で身支度を済まし、部屋をあとにする。外へ出ると、部屋の寒さを上回る冷気との対峙が待っていた。肩を挙げ、冷気に対抗する自分。頭上では、暖かくない太陽がいる。自分はその太陽に睨みをきかす。ややあって、踵をかえし職場に向かう。
職場に着くと、
「おはようございまぁす」
と、無邪気な笑顔に出くわす。“かえで”だ。さっきまでの寒さが嘘のように体が暖まるのを感じる。否、正確には胸の奥だ。
「昨日の映画みましたぁ?」と、無邪気な笑顔のままの“かえで”からの質問に
「観たよ。」と少し無愛想に返す自分。慌てて「面白かったよね!」と付け加える。顔には少しだが、笑顔が戻っているのを感じる。