「昨日の映画みましたぁ?」
と、無邪気な笑顔のままの“かえで”が話しかけてくる。
「観たよ。面白かったよね。」
他愛もない会話だ。しかし、自分にはこの他愛もない会話が一番の幸福だった。これを繰り返す度に自分は“かえで”に惹かれていく。忙しい仕事も“かえで”の存在ひとつで、自分の意気が高揚する。つくづく単純な男だ。
「そーいえば、八神さんは好きな人いないんですかぁ?」
と、突拍子もない質問を投げ掛ける“かえで”。朝から嫌な汗を掌にかいてしまう。
「いるって言えばいるし、いないって言えばいないかな。」
少し逃げ腰で問いに答える。
「ふーん。」
と、意味深な反応な“かえで”。無邪気もいきすぎは罪だ、と思えた瞬間だった。自分の動揺が顔に出てないかと冷や汗を額にかく。