人形姫と呼ばれる盲目の王女。
名を〈夢姫〉と言い黒髪の美しい方だった。
別塔。
籠の鳥のように閉じ込められている姫は、色白で生気があまり無いように見えた。
「──戈…月…ですか?あなたは……」
「はい、姫様」
戈月は人形姫に伏礼している。
姫は手を伸ばし真っ直ぐ戈月の肩に触れる。
「いいのですよ。私に儀礼などせずとも、私は〈人形姫〉 良くも悪くも何も感じない者なのですから──」
戈月の肩に触れたまま、姫も地面にしゃがみ、戈月より目線が下になった。
戈月が慌てる。
「ひ・姫様! 俺なんかに触れたり、まして自ら俺より目線を下げてはいけません!!」
「ふっ……ふふふっ」
姫が無表情のまま、笑い声をあげた。
そしてゆっくり閉じていた瞳を開けた。
「姫様……?あの」
姫の目は真っ白だった。盲目ゆえにその瞳は世界を写さない。
「ずっとあなたを待っていました。優しき騎士よ」
「えっ?」
「私は〈世界〉は見えません。だけど──未来は見えます。それゆえ、幼き時にここに閉じ込められてしまいました」
「なっ」
姫は無表情のまま、口だけを動かす。
「私は何も思わず、ただ〈視た〉モノを言ってしまった。誰が死ぬ、どこの国が滅ぶ、戦争になる、災害が訪れる。小さきモノでは怪我、犯罪、スパイ、賄賂、汚職など──数えきれません」
戈月が顔を凍らせ、目の前の美しい少女に恐れを抱きつつあった。
「あなたの事も分かりますよ。〈シエラ・シュミルエール〉 その名は王族の者が受け継ぐ国の名前──」
「!!?」
盲目の姫は戈月の瞳を真っ直ぐ見据える。
「戈月──あなたは〈シエラ・シュミルエール〉の王子ですね」
戈月はバッと素早く姫から離れ、腰に下げていた剣に触れる。
「何故……それを知っている?!! あなたは一体……」
「私は……」
盲目の姫の声に戸惑いの感情が見えた。
初対面で急に色々言いすぎてしまったと。
「──……あなたは何を言いたいのですか? 姫様」
戈月は警戒を解かず、間合いをとったまま人形姫に問う。
「あなたの願いを手助けします。だから私の願いを叶えて下さい。戈月」