そのまさかの展開に、帝は瞠目し、伊織姫はさらに困惑した様子で、螢を見上げました。
帝はあまりの出来事に目を白黒させながら、「なッ…!そなたは女だろう!?伊織姫を愛しているなどと、そんな…──!」と叫びました。
伊織姫も「螢…?」と不安そうな声で螢の名を呼び、なんとか腕から抜け出そうともがいています。
すると螢は呆れたように鼻で笑い、「それは陛下の持論でしょう?私と伊織姫さえよければ、陛下がどう思おうが関係ありません。あ…姫、そんなに動くとくすぐったいですわ。」と、憎たらしい口調(…と帝は思った)で言いました。
しかし帝も負けずに、言い返します。
「そっ…そなたがよくても伊織姫はどうだ!?そんな妖しの恋など…左大臣家が承知するわけがない!第一…女の身分で姫を幸せに出来るものか!ましてや金も権力もないただの従女に!」
するとその言葉を聞いた螢の瞳が、暗闇で一瞬キラリと光りました。そしてまだもがいている姫から無言で腕を離すと、姫を守るように再び前に立ち、ゆっくりと帝に近寄りました。
そして帝の目の前に立つと、低く冷たい声で、「…女であることが悪いのなら…女でなければいいのだろう?」と囁き、スッと帝の手を握って引き寄せ、なんと、自分の胸元へ帝の手を当てたのです。
一瞬帝は何が起こったか分からず、真っ赤になりながら螢の胸元から手を退こうとしました。が、途中何かがおかしいことに気付き、大胆にも手を袷に滑り込ませると、胸の膨らみがあるはずの場所を撫でました。
予感的中。そこにあるはずの女性特有の膨らみが、なかったのです。あるのは、堅い胸板のみ。貧乳どころの話ではありません。間違いなく男の胸板です。
そこで初めて、帝は螢の正体に気付きました。そう、彼女──もとい彼は、男だったのです。
帝はひどく慌てて、突っ込んでいた手を引っ込めると、思わず螢から2・3歩退いてしまったのでした。