「えっ…あっ、はい。そうですか…」
電話口からもちろん向こうの声は聞こえない。
ただただ私は、不吉な予感を抱いていた。
まもなく友三がこちらに近付いてくる。
「さて、残念なお知らせがあります」
さほど残念そうな顔はしていない。
「塩田さん、来れへんってよ」
私は少なからず落胆した。しかし不思議と心は折れなかった。
何より、私はこの小旅行が少し気に入っていたのだ。
仮に帰ろうとしても、友三はそのまま私一人を帰らすことだろう。そういうやつだ。
方向音痴はこういう時につらい。
「まぁ長かったこの旅も、もうすぐゴールやしな」
友三が私を慰める。
乗りかけた舟だ。
私はそう考えることにし、それからの機動力とした。
それからの旅は更に過酷を極めた。
チャリをこげどもこげども、目的地に着かないのだ。
「おい友三、いつになったら着くねや!」
と訊いてみても、
「頑張れ、ほんまにあと少しやから!」
と返されるばかりだった。
途中それでも希望の光のようなものがあった。
軽い山道を越えたあたりから、私の見覚えのある風景が広がりだしたのだ。
たしかこの辺に母方のばあちゃんちがあったっけ。
だとすると…児童公園の巨大アスレチック。その周辺には魚が釣れそうな池もあるな。
私の推理は全くの無駄だった。
友三は涼しい顔でそれらをどんどん通過していく。
空はオレンジ色に染まり、辺りには鬱りが見えはじめた。
チャリは進めど、周りのものはどんどんその色合いを沈めていく。
そして辺りが夕闇にさらわれた頃、友三がいきなり大声を出す。
「ここや。着いたわ!!」
続く