その日、私とさやは密かに契りを結んだ。腕の中のさやは、愛しくて愛しくてそれ以外何も無かった。さやは生娘だった。
私は決められた許婚の女『幸江』と祝言を挙げた。祝言を挙げて数日後、奉公人のさやとさやの祖父の平助は暇を出されて屋敷を追い出された。
替わりに幸江の奉公人が屋敷に来た。幸江は二人を追い出したのだった。
私は二人を探した。母と妻の幸恵に知られないように…屋敷の奉公人に対してもだ。
三月半を費やし、漸く私は二人を見付け出した。さやと平助は町外れの長屋に身を寄せていた。
その日から、私とさやは人目を避けながら逢引した…それも、人目に付かない茶屋で逢引を重ねた。
やがて、さやは私の子を孕んだ。似た時期に妻の幸江も孕んでいたのを知った。
幸江が子を孕んでも愛しいとは思えなかった。さやが私の子を孕んだのを知った時には、私は心から幸せを感じた。
さやは私の子を産み、生まれたのは女の赤子だった。名を『ちよ』と名付けた。
幸江が産んだ私の子は、男だった事で母は喜んでいた。
妻の幸江よりも、私はさやと娘のちよが大切だった。