男は山間の道路脇に車をとめ、煙草に火をつけた。
そして闇にそびえ立つ廃病院を見上げる。
巷では廃墟ブームが巻き起こっていた。
廃墟の魅力にとり憑かれた人々は口を揃えていう。
あの独特の虚しさがいい。まさに滅びの美学だ、と。
懐古主義を語りはしないが、男もそんな廃墟好きの一人だった。
『XX記念病院』
1988年創立と書いてある。
この廃病院は廃墟の中でもとりわけ有名だった。
廃墟としての価値があるわけではない。
最近ネット上で妙な噂が囁かれているのだ。
“この廃病院を訪れた者はその後必ず行方不明になる”という。
男はその謎を確かめるべくこの場所にきた。
月の光が不気味に廃墟を照らし出す。
男は意を決してその中へと入っていった。
続く