別段古びてもいない不思議な手紙。そこにはこう書かれていた。 『おそらくお前がこれを手にしているのは私達が既に死んでいる時であろう。こんな形で真実を伝えることになってすまないと思う。しかし、許してほしい。我々は皆運命の従僕であるゆえにこれには逆らえないのだよ。私の家系は水明派。この村…今は村といっておくが、想像を遥かに超える流派がおる。優よ。真実を知りたいのならそこにある刀を握れ。全てがわかる。名刀鍛冶によって作られ、水明派を支えてきたその刀がお前の運命をも司るであろう。今までを、そしてこれからも−許しておくれ』 なんだよこれ…運命がどうとかって。運命なんて信じない。だって自分で切り開くものじゃないのかよ!なぁ親父… 優は無意識に刀を見ていた。綺麗に研かれた美しきその刀はなぜか心に安らぎを与え、見るものを魅了する。何も恐いものなんてない…運命をみるんだ… 頭から余計な考えが全て取りのぞかれていた。 そして、いつのまにか手は刀を握っている。 「なんだ、別に大したこと…」 瞬間、走馬灯をみるように刀から思念が流れ込んできた。 〈汝の名は源水…その名の通り水明の起源を司り水明を終らせる者。最後の伝承者。他宗を滅ぼせ…お前は水明最強の男。殺せ。異端を殺せ。全てを滅ぼせ…我は汝と共に滅びる運命。我を操り、殺戮の−罪深き運命を負え…〉 優−いや優ではもうない。もはや優はこの世に存在しない。目は暗く血走り強烈な威圧感が周りを包んでいる。 源水の掌−刀を掴んだその掌にはあざのようなものができている。伝承の証である水明派の紋章が。水を連想させる模様は静かに暗い輝きを放っている。 源水は全身に鎧を装着し刀を刀身に納め、それを背に取り付けた。鎧はなぜか全て源水に合うように作られていた。 源水−皆伝を唯一持つ最後の水明派の伝承者は、重力に逆らうことができない人間のように、何かに引き寄せられるようにして村を出た。これから待ち受ける血で血を洗う戦いに導かれるように。