黒塗りの車が怪しげなビルの前にとまった。
車の中から黒服の男がおりてきた。手にはジェラルミンケース。
そしてビルを見上げる。それから腕時計に目をやる。
23時58分。
男はビルに入っていった。
エレベーターに乗って13階のボタンを押した。
ビルの中に人の気配はない。この男は何の用があってここに来たのだろう。
13階にとまると、男は666号室に急いだ。
13階なのに666?
恐ろしいほど冷たいドアノブに手をかけた。
ガチャ。
部屋の中は真っ暗だが、そこには確かに1人の男がいた。
「明かりはつけない方がいいだろう」その男は言った。「ところで、ブツは持ってきたか?」
「もちろんだ」黒服の男が言った。
そう言ってケースを部屋の男に渡した。
「ご苦労様」
「じゃあな」と黒服の男。
ドアを開け、来た道をまた戻って行った。
部屋の男は閉まったドアを見ながらニヤリと笑った。
黒服の男はビルから出ると、入る前にやったように、そのビルを見上げた。
そして煙草をくわえた。
時刻は0時19分。
あたりは海の底みたいに静かだった。