優は唯一の村の出入りが可能な林道を歩いていた。辺りは一面木で覆い尽くされていてまるで緑の絨毯といった感じだ。
ふと先刻の出来事を思い返した。あの時溢れるように感じた力は今は感じない…何度刀の柄を握ってみても声も、何の反応もない。まるで刀自体が死んでしまったかのように。
林道を歩く優の歩が急に止まった。目の前に短剣が突き刺さっている。
今の今までそれに気が付かなかった。つまり…
その時、目の前に黒い装束を身にまとった男が頭上から降下してきた。顔は深く被られた装束によってよく確認できない。
「私と…戦え」
「嫌だ、と言ったら?」
悪戯っぽく優が答えた時には男は地面に突き立つ短剣を引き抜き優目がけて斬り掛かっていた。咄嗟に背の刀をさやから引き抜き眼前に迫る短剣を受けとめ…
「つ、強い…!」
優はまだ17歳。対する相手は強靱な肉体を持つ男。力の差は圧倒的なものがあった。
一刻も早く距離をとらなければ…優は素早く後ろに身を退き、体勢を整えた。
(一撃でも喰らえば致命傷は間違いない…)
落ち着く間もなく男はその重厚な肉体に似合わない速さで再度攻撃を仕掛けてきた。空いた手に短剣を掴み両手を最大限に開いて向かってくる。優は思い切り地を蹴り横に飛んだ。
(あれ、いつもより体が軽いな…)
人間離れした飛距離を稼ぎ男のいた場所を確認するがそこには誰もいない。
まずい。見失った−
困惑する優を尻目に男は短剣を優の頭目がけて投げ付けた。熟達した業によって投げられた短剣は空を裂き、優の兜を穿つ−
兜だけを。
「俺はここだ。伊達に今まで訓練されてきたわけじゃない。俺からもいくぞ」
周りを見渡していた男は木の陰に身を隠していた優を見付け口元をゆがませた。まるで楽しみがまだ続けられるといったように。
(なんだこいつ…今笑ったのか?この殺し合いを楽しんでいるだと…)
男は短剣を腰から引き抜きそれらを研ぐようにすりあわせた。嫌な金属音が林の中鈍く響く。
待っている…奴は今度は受け手というわけか。今度はこちらから仕掛ける番だ。(行くぞ!)
優は刀を握り締め地を蹴った。