「力で駄目なら技で勝負だ!」
優は顔にわずかながら恐怖を浮かべていた。その精神の弱さからか、安易な真上からの斬り付けを選択してしまった。
「受けてみろぉぉ!」
男は優の太刀を受けとめるために頭上に短剣を振りかざした。しかし、そこにあるはずの優の刀がない。
「…かかったな。お前の負けだ!」
真上から振りかざされたはずの刀は−いや振りかざされた刀は、事実、その動作を伴っていた。しかしそれら一連の流れを消し飛ばせた技、それこそがこの『残像』である。
残像−瞬時に極められた速度で動作することにより一動作前の行動をあたかも現実にみせる幻術。忍にしか許されていない最強の体術だ。
常人からみれば片手が2本あったようにみえただろう。既に優の刀は男の胸を標的としている。先程みせた崩れた表情は敵を欺くために作り上げた仮面だった。優は自らの太刀が男の心臓を貫通する光景を見たと思った−しかし、優の刀は男の左手によって操作された短剣に弾かれている。
「え…嘘だろ…」
全部ばれていた。なにもかも。裏の裏をかかれた優は一瞬の動揺を隠しきれない。そこにわずかながら隙が生じた。その隙を手慣れた殺戮の手捌きは逃さない。無防備になった優の胴体に刄が襲い掛かかった。