「おはよ〜ッ!」
…朝から学校の廊下に元気に響く、君の可愛い声。仲のいい友達にとびきりの笑顔を向け、そして僕の前をその笑顔のまま素通りする。目すら逢うことはないし、可愛い声で挨拶なんて、当然してくれない。
まあ無理もない。だって君と僕は友達じゃないし、ましてやクラスメイトでもないから。好意だって僕が一方的に持ってるだけだ。
だけど僕は最近…そんな毎日が物足りなく感じるんだ。
僕だって君に挨拶したいし、挨拶されたい。僕の名前だって知ってほしいし、あわよくば友達に…──いや、それ以上の関係にもなりたい。
ああ…僕はいつからこんな欲張りになったんだろう。でも自分でも止められないんだ。加速する僕のこのキモチ──…。
抑えれば抑えるほど、僕の中で君の存在が愛しく、濃くなっていく。僕の全身が、君を欲しているのが判る。
こんな狂おしいほどの僕のキモチに、君が応えてくれる日は来るのだろうか…。
…そこまで考えたとき、男友達の悠介から突然肩を叩かれ、こう言われた。
「おい、秋人!お前超怖ぇー顔してるぜ。考え事するときその顔すんのやめろよな〜。ってか、あのコがお前に用あるってさ。」
そう言われて慌てて思考を停止しゆっくりと顔をあげた。そして悠介が指した場所に立っている女の子を見たとき……僕は思わず絶句してしまった。
しかし悠介はそんな僕の様子に気付かず、話を続ける。
「おらっ!可愛いだろ?てかお前は知らねぇか。あのコはA組の…──。」
僕は本能で悠介の話を遮り、そしてゆっくりと呟いた。
…愛しい、君の名を。
「知ってる…。A組の…冴木愛里さん…。」
悠介は、それを聞いて少し瞠目したが、「…なんだ。知ってんなら今更紹介しなくてもいっか。」とだけ言い、手招きして彼女を呼び寄せ際、意味深な目線を彼女に投げ掛けて、教室に戻っていった。
取り残された僕と彼女は最初、どうすればいいか分からない、といった様子でうつ向いていたが、彼女の方が先に覚悟を決めたのか、僕に向き合うと、「名前…知ってたんだね。D組の早良秋人クン…。」とポツリと言った。