「待ったかい?椿。」
少し間があいた。彼女は帽子とサングラスをとった。
「バレたか。」
「サングラス似合わないよ。」
死んだはずの椿が、なぜかそこにいた。
僕は決意した言葉を口から出した。
「僕はまだ、きみの行く世界へいけない。」
なぜか鼻が痛くなった。目が湿ってきた。
彼女は目を赤くしていた。
「全部ウソよ。」
「へっ?」
変な声をだしてしまった。
「別れのあいさつがまだだったから会いにきただけ。」
彼女の体が透けてきた。
「時間がないみたい、さようなら。」
彼女は目から涙を流した。僕も泣いていた。
「待ってくれ!」
僕は彼女を抱きしめた。一瞬だけだったが暖かった。
いたはずの彼女はもういない。僕は泣きつづけた。
僕は映画館にきた。彼女が死ぬ前に見た映画のチケットを二枚買った。
二週間前はあんなに人がいたのに今はちらほらとしかいない。
映画が始まる。
二週間前は僕の隣に彼女がいた。
しかし今、僕の隣は空席になってしまった。
完 作・等式