姫がくだらないことをぼんやりと考えていると、それも束の間、螢雪が伊織姫を見つめ、口の端を歪めてニヤッと笑い、「…姫。貴女はこんな話を知っているか?現帝には…実は兄がいたという話を。」と、唐突に聞きいてきました。
伊織姫は突然の質問に戸惑いながらも、しばら豪奢な短刀を出しました。
そしておもむろに抜刀し、姫に短刀の鞘だけを差し出すと、「…この鞘を見て、何か気付いたことがあるか?」と質問しました。
姫は訳が分からないながらも、燭台の光で鞘を照らし、じっくりと観察しました。
そして鞘の中心にある装飾に目を留めると、驚きを隠せない声でこう言いました。
「…──天皇家継嗣直紋・双龍華…!」
すると螢雪はますます満足そうに頷き、「そうだ。正真正銘、天皇家継嗣直紋・双龍華が彫られた短刀だ。さすが左大臣家の姫だな。…おっと念のために言っておくが、盗んだものじゃない。これは私のものだ。」と、言いました。
それを聞いた伊織姫は、ますます驚き、思わず「盗んだ物ではない…!?では…貴方は一体誰ですの…!?」と叫んでしまいました。
すると、螢雪は思い出すのも忌々しい、といった様子で「…いずれ解る。というか…賢い貴女ならすぐに解るはずだ。その短刀を私がもっている意味を…。だから続きは現帝が来てから話そう。使いの話によると、もうすぐ着くはずだからな…。」と言い、それきりそっぽを向いてしまいました。
そうは言われても、伊織姫はあまりにめまぐるしく変わっていく状況に、精神的にも肉体的にも疲労を来たしていました。
が、初出仕に遅刻したせいでこうなったことを心の中で恨み、疲労で多少まどろみつつも、結局は素直に、帝と螢雪と短刀の繋がりを、ゆっくり確実に頭の中で繋げていきました。
そしてある結論まで達したと同時に…──姫はあまりの疲労でパッタリ眠ってしまったのでした。