夏が終わり秋がきた。
我々は友達だったし、そのことはやがて冬がきても変わらなかった。
ある時、友三が私に訊いた。
「お前、進路どうするん?」
我々は最後の路上ギターを終えて、帰りの電車に揺られているところだった。
この日で路上ギターをやめることは、以前から二人で決めていた。
一週間後に私立高校の入試が控えていたのだ。
「俺は公立の高校に行くで。今度の私立入試は保険みたいなもんや」
「ふぅん…高校か。俺はどっちにしろ親父の仕事を継ぐしなぁ」
友三の父親は建設会社を営んでいた。
「まぁ高校ぐらいは卒業しときぃや」
一般的な意見を述べる。
「うん…でも俺、音楽関係の仕事にも興味あるねんかー」
一度だけ、我々はステージに立ったことがある。
観衆の前でギターを弾きながら歌を唄ったのだ。
大型デパート内の一角とはいえ、かなりの人が集まった。
「お前なら何でもできると思うけどな」私は言いながら思い出す。
そもそも、あの一度きりのステージ演奏は友三の好奇心から始まった。
「なぁ、ここでギターやろうや!面白そうやぞ」
その時ステージでは四人組のコーラスが唄っていた。
私は反対した。
こんな場所でやるには我々は経験不足だったし、第一、友三の歌唱力はあまりに乏しかったのだ。
「まだ早いやろ。もっと練習せなあかん…って、おい!!」
私が言い終わらぬうちに、友三は受付へと走っていった。
「大丈夫やって!さぁ早速お仕事。来週の日曜日に、このステージで」
やればできるものである。
当日の演奏はまずまずの成功を収め、交通費として二千円をもらった。
我々はそれをギャラと称し、無邪気に喜び合っていたものだ。
「それからお前には人を引きつける能力がある」
私はふと、友三のおじいちゃんの顔を思い出す。
友三に騙されながらも、楽しい夏だった。
「なんかお前、今日はしんみりしとるなぁ?」友三が私に作り笑顔を向ける。
「ギターも今日で最後やけど、お前と会うのも今日で最後や」私はきっぱりと言った。
「親もあんまりええ顔してへんねん」
けじめをつけなければならなかった。
実際のところ、どうすることが正しかったのかは分からない。
「そうか…」友三はそれからずっと黙り込んだ。