ー 最終夜 ー
お付き合いを始めて一年。
彼は私にプロポーズをし、私は彼に「YES」と応えた……。
結婚式、当日。
親代わりの女将さんは、かつての自分の花嫁衣裳を「嫁入り道具に」と言って、目に涙を浮かべながら私に着付けをしてくれた。
私は、「ありがとう」の一言さえも、声が詰まって満足に言えなかった……。
控え室に一人。
鏡の中の私は、自分で言うのもどうかと思われるが、今までで一番輝いていた。
街を彷徨い、女将さんに拾われ、温かい人達に囲まれて過ごし、彼と出会い……。
これまでの事が目の前に浮かんでは消えて行った。
私はお化粧が落ちないようにと、溢れる想いを我慢するのに必死だった。
それももうそろそろ限界だと思われた時、「花嫁さーん、間も無くお時間でーす!」と係りの方から声が掛けられた。
ふー……っと一息、大きく深呼吸をし、立ち上がりざまに鏡を覗くと、お着物が妙にタブついているように見える。
立ったり座ったりして少しずれたのかと思ったが、何だか不思議な感覚が、…特に胸の辺りに妙な違和感がある。
お着物のずれを直そうと胸に手を当てると、例えるならばまるで紙風船がつぶれるかのような感じだった。
私は全身からサーっと血の気が引く思いをした。
かつて、同じような感覚を味わった事があるからだ。
そしてあの時と同じように、恐る恐る股間に手をあてがった。
着物の上からでもはっきりと「ふくらみ」を感じる事が出来た。
…どうしよう……。
ただただ、その場に立ち尽す事しか出来なかった。
「それでは花嫁さーん、お願いしまーす!!」
ー 幕 ー