だけどその時の私は、言葉の意味は理解できていたけど、まだ頭が完全に受け入れてなかった。だから、うつ向いたままの彼に、「ちょっと…頭冷やしてくるね…。」とだけ言い残し、震える足で立ちあがると、フラフラと店の奥のトイレに向かった。
そしてトイレに行って、震える手でドアを開けようとした時。
外で甲高いブレーキ音が響いたと思ったら、突然店内に破壊音が轟いた。店のテーブルや椅子、照明や床も、僅かに揺れた気がした。続いて、店内にいた客が一斉に悲鳴をあげた。
私はハッと我に還ると、トイレのドアノブから手を離して、音のした方を見た。
そこには、信じられない光景があった。…──さっきまで私が座っていた窓際の席に、車がガラスを突き破って乗り出し、テーブルと椅子をペシャンコにしていたのだ。
…いや、ペシャンコにされたのはテーブルや椅子だけではなかった。当然、そこにいた私の愛する彼も、醜くひしゃげた車の下敷となっていた。
私は瞬間、絶叫した。
「い゛やぁぁぁぁぁぁッ!!」
そして一目散に彼の元へ駆け寄ると、かろうじてはみ出していた血まみれの手を握り、泣き叫びながら名前を呼び続けた。…しかし、ついに彼の口から返事が返ってくることはなかった。
そう、煙を噴いている車の下敷になって、彼は…死んだ。おそらく即死だった。
…彼は私に一方的に別れを告げて、私たちはそのまま本当にあの世(彼)とこの世(私)に別れてしまったのだ。