文明開化によって、急速に欧化していく国。でも、庶民がそうそう変わることもないし、町だって全てが変わるわけじゃない。ガス灯がどんなに立っても夜はやっぱり暗いまま。夏が終り秋の風が吹いている。
龍一は、いつものように館を抜け出して、一人夜の町を散策していた。いつものように寺社の境内に入り、その何とも言えない空気を感じていた。本殿の方まで来ると夜の闇をまといながら、ヒラヒラと舞っている蝶がいた。
龍一は、その姿に目を奪われていた。するりと伸びた手足、漆黒の髪、身にまとう白き衣の袖が優雅に舞う蝶のようだった。
紫音(しおん)と龍一の出会いはまさに運命だったといえるだろう…
龍一はそれからというもの毎日、いや、毎夜、同時刻に寺社へと通った。初めてその姿を見てから、一週間が経った日………