菜々美は愕然とした。仕事柄、死体は何度も見ているし、自分で死体を作ったこともある。しかし、死体は晃の物だ。エレベーターがが閉じそうになるのを分け入って、菜々美は自分の身体をエレベーターの中に入れた。顔は長時間殴られ、いたぶり続けられたのであろう。眼球は二つともなかった。頬から横に向けて銃を打つとこのような顔の形状になる。それから更に。頭部を形が無くなるまで殴ったに違いなかった。それ以外は外傷は無く頭のみを攻撃した。殺害だった。菜々美は悲しみより怒りが先に出てどうしようもなかった。女なら泣くべきなのだが、菜々美の感情は怒りと憤りしかなかった。もう、今から晃を病院に連れて行っても、死亡診断書を書きにいってもらうようなものだ。傷害致死で警視庁の捜一が動きだすだろう。それは何としても避けたかった。だとしたらどうする?このまま、晃を置いては行けない。菜々美は考え込んだ。そうするうちに、涙が出てどうしようもなかった。怒りと憤りの感情が晃を失った事への悲しみにやっと、身体が変化したのだ。菜々美は晃の側で泣き崩れた。自分のせいだと菜々美は泣いた。国家機密などを追っている自分が悪かったのだ。そういう女なら恋など性交渉など人並みの恋愛など求めてはいけないのだった。寂しさをはね飛ばす。心の強さを持たなくてはならなかったのだ。晃を殺したヤツは必ず殺す。怒りから悲しみ悲しみから怒りへと感情が激しく変化したが晃の最後の身体を見てから数分、警察官としての義務なのだろうか。菜々美は晃の死体をどうしようか考えを巡らせていた。殺したのは国家公安委員会の人間に間違いはない。ただし、晃を誰に発見させるかだ。このままにしておくと、国家公安委員会の捜査員が始末して何もなかったようにするだろう。警察庁で神奈川県警を動かして警視庁の介入を防ぐ手もある。いや。菜々美は携帯電話を取り出して、110に非通知設定でダイアルした。「もしもし、大田区、西蒲田にあるリーザスマンションのエレベーター内に人が血を流して倒れています。早く来て下さい。息がまだあるみたいなんです。早く、早く、」そう早口でまくし立てると。携帯を切り。エレベーターに乗り込んだ。菜々美は晃を見つめながら血で汚れた顔の至る所にキスをした。