あの時一番上にあった広告が、楽器店のものやなかったら。
そこにピアノが載ってなかったら。
雲ひとつない青空やなかかったら、うちは気にも止めんかったかもしれん。
見上げた桜のその上の空から、うちの「ピアノ」が飛んできた。
それは少し不安定で、でもまっすぐ飛んで。
言葉が出ないうちの口は、動かない。言葉は少しこわい。
「ピアノも何も言わん」そう言った紙ひこうきを飛ばした人。
その人の音は少し雑。でもどこか優しくて、曲は何も弾かれへんのやけど、優しくて。
だから、言葉で話してみたいと思った。
音だけでうちはわかるけど、その人はうちとは違うから。
気持ちは言葉の方が伝わりやすいのかもしれへん。
そやから言ううてみた。
「あなたがすきです」
そのときのその人の顔といったら、顔といったた。