気付けば、俺は車の下敷になっていた。
痛みは感じなかった。いや…痛みだけじゃない。何も判らなくなっていた。
血が流れる感覚も、乗っかっている車の重みも、愛しい…彼女の叫び声さえも。
薄れゆく意識のなか、俺は思った。(こんなカタチで死にたくねぇよ…。俺はまだ…一番伝えたいことを伝えてない…。…優香里…愛してる…結婚しよう…って…──。なのに優香里の声が聞こえない…優香里の姿が見えない…優香里の…優香……優───。)
そして俺は、死んだ。
未練がないといえば嘘になる。ていうか未練タラタラだ。もっと優香里と一緒にいたかったし、もっと優香里を抱き締めたかった。もっと優香里の声を聞いて、目に焼き付くくらい顔を見つめて、『愛してる』と囁きたかった。
愛しい優香里と、生涯一緒に生きていたかった。
それなのに。優香里を傷付けるだけ傷付けて…しかも先に逝って…。俺は最低だ。
でもこんな結末になるなんて思ってもなかった。冗談だった別れ話が現実になった。そして俺は死んだ。…死んだんだ。
…これはきっと罰だ。愛しい人を傷付けた罰。でもその代わり、優香里は助かった。俺のついた嘘で。
皮肉なことだけど、あのままだったら…普通に誕生日を祝っていたら…俺たちは二人とも死んでいただろう。
嘘ついたまま死んだのは最悪だった。だけど…俺は優香里の命と引き換えなら、死んでも構わない。
俺は優香里を愛してるから。
ずっと。
ずっと、永遠に…──。