狂喜の趣くままに血塗られた朱色の白刃をえぐりこむ男にはもはや理性など皆無に等しい。よもや優が意識を取り戻したことに気付くことはなおさらだ。
「死にぃゃぁぁ!」
男は渾身の力をその刀の切っ先に全集中。狂喜の絶頂を目前に最終段階に入る手順を完了した−
しかし、次の瞬間男がみたものは紛れもない真実、驚愕の光景だった!
短剣が筋繊維、そして内臓を食い破り優を貫通する一刹那前、突然現れた手がその身を汚す刄を鷲掴みにする。それとほぼ同時に短剣は引き抜かれ原型を留める事無く、まるであげられた水しぶきの如くに粉々に粉砕。そのまま弾かれた短剣は虚空を旋回、そしてなにかを地面に串刺しにした−男の足を。 「うぇ?…な、なんだこれはあぁぁ!?」
男の目の色にもはや先刻までの狂喜はない。あるのは死の恐怖−冥府にぶちこまれる絶望だけだ!
「わ…若造。貴様、名を名乗れ!」
「…我が名は源水。水明の起源にして水明を終わらせる者」
「くくく…格好つけられるの今のうちだぞ小僧…たかが私の足を貫いただけで調子付きおって。貴様が死ぬ前に教えてやろう…私は炎獄流の伝承者、蛇龍。今までは何一つ業を使わないでおいたが、今から貴様に見せてやる。私の最強の業を!」
蛇龍の目に再び業火の輝きが戻る。
「其の身に刻み込め!炎蛇流牙爪!」
振り下ろされた蛇龍の短剣は突如燃え盛る業火に包まれた。それはもはや短剣ではない。炎によって体積を獲得、日本刀並みの長剣になっている。そしてまるで猛毒蛇の毒牙のように炎剣が源水に襲い掛かる! 「甘い…その程度の炎では我が水壁を破ることは不可能だ」
目前に迫る炎を前にしても微動だにしない源水は太刀を引き抜き、それを頭上に振りかざす。
「覇刀水壁陣」
突如源水を包み込む水壁が出現、炎はその水壁に屈する結果となった。
「なんだと!?私の業をいとも簡単に…」
「貴様と付き合う時間はもう残されていない。逝け」源水の刀身に青白い光がほとばしる。