香里が姿を消し、香里からもらったクロスのサファイアから、青い光線が出ていた。その指し示す方に、ゆっくり歩いていくと、書斎のいくつもある本棚の一番奥をさしていた。そのあたりの本を探っていると、
「私の教えた呪文を思い出して」
と香里の声が聞こえた。
呪文???なんだっけ???やばい思い出せない・・・・
頭を抱えて考え込んでいると、ふと、青い月夜に神秘の扉が開かれる、という言葉を思い出した。そうだ、きっとこれだ
「青い月夜に神秘の扉が開かれる。」
と俺が言うと、本棚が両開きにギギッーと音をたてて開いた。
中には、幼児か座るような小さな机とイスがあり、ほんの一畳ほどのスペースにそれだけと、机には小さな手帳のようなものが二冊乗せてあり、スタンドもあった。
俺はスタンドに明かりをつけると、その手帳を手に取り読んでみることにした。
その内容とは、どう見ても、同性愛の片思いを毎日綴った日記だった。熱い思いと伝えることの出来ないもどかしさが、延々と書かれている。
誰のものかも気になっていた。すると、アクセサリーのブランドの話なども書かれていて、最後のページの方には香里との結婚した複雑な思いと、どう抱いたらいいのかさえわからないとの内容が書かれ、多分これは葛巻正明の日記なのだろう。背表紙の内側には、香里によく似た、林忠彦、の似顔絵が書かれていた。
そうか、葛巻は林忠彦、つまり香里の父が好きだったんだ。二人は親友同士で、多くのコラボレーション作品を残している。
そこで林が亡くなり、香里と結婚、伝えられない思いと、愛する人に二度と逢えない寂しさが伝わってきた。
そうか、だからあんな香里をレイプするようなことをしたのか。
そしてその中に、このクロスのことも書かれていた。
愛するものに送るというクロスで、数億円かけて、世界を巡って探しに探して買い求め、忠彦に渡したものだったのだ。
言葉に出来ない愛を表現したものだったのだ。
愛のクロス・・・・俺が持つべきものじゃないのか?数億円・・・
途方にくれ、意外な事実に、どうすればいいかわからない・・・