「凍てつけ下朗。そして奏でろ、氷れる音楽を!」
源水がつかと刀身を水平にして持ちながら唱えると、その刀身に青白い光が灯った。まるで蜃気楼のよう−そして湖畔を漂う濃霧のように、刀身を包んでいる。「極零凍斬刃!」
虚空を切り裂き、空間に断裂までをも創造してしまうかと思わせるほどに滑らかな太刀筋。蛇龍は避けるどころか、動くことすらできぬ。無慈悲な刄は眼前の脅威に凍り付いた獲物をこれ以上ないほどに正確かつ精密に断ち切る。
蛇龍が目を閉じた。次の瞬間にはその上半身がずるりと滑り落ちる。体の断面は液体窒素で瞬間冷凍されたかのように凍り付き、その身を巡る血液は一滴もこぼれない。しかし蛇龍は血液までも冷凍されているため直に体温は急速低下、心臓はその役目を終える運命にある。どうあがいても逆らえない運命に。
「よくやってみせた…運命の奴隷であり、そして我が兄弟よ。私はもう死ぬ…だからこれだけは言っておきたい。何故私達は共に争う?それは簡単だ…頂上を決めるため。私達はもはやただの人間から見れば神だ。神とは人にできない事をなしえる者。しかし私達はお互いに殺しあう運命を授けられた。故に−運命には逆らえない故に戦うのだ。それぞれの流派を賭けて…ふ、ふはははは!私は当主ではない。つまりお前は…まだ…ぐふっ」
蛇龍はもはや生命維持が限界に近い。しかし、その短い命を削ってまでに重い口を開く。
「お前の戦いは…まだまだ終わらない…そして当主を…当主を…全て殺した……当主…は……」
蛇龍の口はそれから二度と開くことはなかった。