「10時間以内に僕は死んでしまうってことか」
絶望感と共にため息つくひまも無く、サインが駄目押ししてきた。
「いえ、10時間以内にワープ領域に入るには、あなたに2時間以内に退去してもらわなければいけません」
「2時間? たったの2時間か、僕に残された猶予は。冗談じゃない、こんな服着てる場合じゃないぞ」
立ちあがると服を全部脱ぎ、部屋の隅に在るダストシュートに叩きこんだ。
「君も全部脱いで捨てろ。それで少しは軽くなるから猶予も伸びるはずだろ」
僕の剣幕に怖気づいたのか、サインはふらっと立ちあがると、ブラウスにブラジャーそれにミニスカートと下着を脱いで白くて木目細かい肌を僕の目の前にさらした。
やせてる割には胸があり、きゅんと絞ったウエストから滑らかな曲線を描く腰のラインが、こんな状況にもかかわらず僕の胸を突いてくる。
しかし見とれてる時間も惜しい。サインの服を引っ手繰ってダストシュートに放り込んだ。
「これで少しは時間が稼げるだろ」
「正確には2時間と6分30秒になりました」
コンピュータも見ないであっさりと計算できてしまうなんて、さすがは難関を突破してきた操縦士だけあるってことか。
次にやること。それは荷物を幾つか捨てることだ。
命が危ないんだ。後のことなんか考えてはいられない。
操縦室を出ようとして、気づいた。ドアが溶けてしまって開かなくなってるのだ。
十センチくらいの隙間があるだけで、それ以上はまったく動かない。
荷室にいけないんじゃ、荷物を捨てることもできない。
でも、良く見たら入ってきたドアの他に、もう一つドアがあった。
「あのドアの向こうは何がある?」
「医務室です」
サインは両手で胸と腰をかくして、赤い顔で言った。
医務室を調べてみたが、全自動治療機が一台置いてあるだけで、それ以外は壁にがっちりと設置されたベッドがあるだけだった。
捨てられそうなものは何も無い。
再び操縦室に戻ると、捨てられそうなものをかまわずにごみ箱に投げ込んだ。
食料以外は、光線銃も捨てた。サインは僕の行動に抵抗することも無かった。
どうも変だ。サインは操縦士なんだろ。普通、密航者の言いなりになる筈が無いのに。