「サインはロボットなんだから宇宙に出ても死なないわけだ。それならサインを一旦外に出しておいて、僕を最寄の星まで送った後迎えにくればいいんじゃないかな」
「勝手なことを言うな。そのためにいくら燃料代がかかると思ってるんだ。その案は却下だな」
自分でも勝手なことだとは思ってた。こんなかわいいサインを自分の身代わりに宇宙にほっぽり出すなんて、言った後すぐにでも口から出た言葉を吸い込みたくなった。
「僕がどうしてもいやだと言ったらどうする?」
好奇心から聞いてしまった。
「その時は仕方がない。この船の中の空気を抜いておまえに死んでもらうしかないな」
そして僕の死体はサインが泣きながら宇宙に葬るのか……。
なにか方法があるような気がするんだけど、焦る僕の頭の中には冷たい宇宙空間に漂う自分の遺体がゆらめくだけだった。
「ちょっと待ってください。私が、……私が出て行きます。ロボットは人間を守らなければならないんです」
意を決したサインが僕に抱きついてきた。サインの裸の胸が僕の胸に重なる。
弾力のあるサインの乳房が弾む。
思わず僕もサインの腰に手を回した。
滑らかな背中のラインを手の平でさする。お尻に触って思いきり尻たぶを握ってみた。 しかしいったいどんな素材を使ってるんだろう。
サインの体の感触は人間と寸分も変らない。涙で潤んだ瞳が僕を見上げている。
本当にこの娘はロボットなのだろうか。行動は確かにロボットだけど。
サインの瞳を見ていて僕も決心がついた。
僕がこのままここに居座れば、結局はロケットもろとも太陽に焼かれてしまうだけなのだ。
密航者は死刑にならないといけないのだ。
「サイン、ありがとう。キミのその気持ちだけで嬉しいよ。僕が出て行く」
船のコンピューターはよほど嬉しかったのか、それとも元来の皮肉屋なのか静静と葬送の曲を流し出した。
「気が利くじゃないか」
「このくらいはしてやるさ」
そして僕の近くの二重扉が一枚だけスライドして開いた。
さらに1 メートルくらい先には暗黒の宇宙につながる2枚目の扉がある。
僕が一枚目のドアを過ぎると同時に、一枚目のドアは閉ざされ、奥の扉が開くのだ。
そして僕には弾ける空気と共に死へのダイビングが待っている。