僕は少し間を置いてから言った。
「サインが生きてるからさ。サインはロボットじゃないんだ」
船のコンピューターは答えない。サインもきょとんとした顔を僕に向けていた。
笑い声が聞こえて、その後に船のコンピュータの言葉が続いた。
「何を言い出すかと思えば……。さっきおまえが自分でサインはロボットだと言い当てたばかりじゃないか。自己矛盾もはなはだしい」
その言葉に恐れが滲んでるのを僕は感じた。
「僕も最初は彼女はロボットだと考えた。でもそうすると生命維持装置が最初からONになってることの説明がつかないだろ。出発前、おまえは僕が密航してるのを知らなかった。だから警報を鳴らすことも無く、のんきに出港したわけだ。人間が乗ってることを知らないおまえが無駄なエネルギーを使って船内に酸素を供給することなどありえない。つまり僕以外にこの船に生命体が最初から乗っていたと考える以外に無いということだ。そして、生命である以上食事をとる必要があるから、すでに出港して三日目になるのにまだ木箱の中に隠れているのは無理がある。それらを考えあわせると、サインが生命体であるという結論以外無いんだよ」
「わかった。そうだ。サインは人間だ。おまえの言う通り。しかしだとしたらどうする?この船がエネルギー不足な事には変わりは無いぞ」
船のコンピューターには結論を急ぎたいわけがあるのだ。エネルギー問題以外にも。
「いや、サインは人間じゃない。さっき言っただろ、サインは生きてるけど、人間じゃないんだ。サインは誘拐され、殺されて、ロボットの脳を移植された生命体ロボットなんだ。だからロボット三原則に支配されていて僕を殺す事ができない。しかし、おまえに操られもする。できないことを押しつけられてうろたえてる可哀想な子ウサギなのさ。さてと、生命体ロボットは星間法規で禁止されてるはずだよね。そのくらいは僕でも知っている。ということはつまりこの船は密輸船だったというわけだ」
船がきしむような音を発してがくんとゆれた。
船のコンピューターの動揺が、操縦系統を乱れさせたのだ。
僕とサインは抱き合ったまま床に倒れてしまった。
痛たた、と腰をさすりながらおきあがる。