サインがすっと立ちあがった。顔を見ると今までの苦悩が嘘のように晴れた、生き生きした表情をしていた。
「やっと自由に話せるようになりました。今まで、私は船の意思に押さえつけられていたのです」
僕も立ちあがり、サインの狭い背中に手をまわして、彼女の体を抱きしめた。
「もう大丈夫だ。これ以上君に行動を強いる必要性は、あいつにはなくなったはずだから」
僕の胸の中で、サインの小さな顔が見上げる。
「でも、重量オーバーなことは変わりませんよ。積荷を捨てるにも、荷室にいけないから無理ですし……」
困った表情がかわいい。
「やはり僕が出て行くしかないだろうね。この船が法規違反の密輸船だとしても、密航者の方が罪が重いし」
サインが悲しげに目を伏せた。そして僕の胸に顔を押し付けてきた。
「駄目です。あなたを死なせるくらいなら、やっぱり私が出て行きます。体重は同じ位のはずですから」
なかなか感動的なことを言ってくれる。でも、それはロボット第一原則上、言わなくてはならない言葉なのだ。
「僕を残して君に出ていってもらうのは困るんだよ。そうなると、この船のコンピューターは直ちに酸素を止めて僕を殺すに違いないんだ。口封じのためにね」
「でも、あなたを死なせるわけには……」
サインのロボット脳はやや古いものなのかな。考えが煮詰まってしまうと、フリーズに近い状態になるようだ。
「大丈夫、ただじゃ出て行く気はないよ。僕だって死ぬのはごめんだ。……おいおっさん!」
不利になった途端に黙りこんだ船のコンピューターに呼びかける。
「密輸のことは秘密にしておいてやる代わりに、一つ条件がある」
大事な密輸品・サインを傷つけずに僕を始末することに意識を集中させていたであろうそいつが一拍置いて答えた。
「条件を言え。できることには応じてやる」