ー 第 1 回 ー
私は、俗に言う「団塊の世代」の人間である。
結婚して三十数年、子供達は結婚して独立し、孫を連れてちょくちょく遊びに来てくれる。
先日、主人も定年を向かえて退職。
「ご苦労様」「お祝いに」という事で、子供や孫達が連名で主人にゴルフ道具一式をプレゼントしてくれた。
そして、
「えっ? 私にも……!?」
少し大きめの袋の中には、1台のノートパソコンがあった。
私は典型的な機械オンチであり、ビデオのタイマー予約すらまともに出来ない。
世間ではITとか、小難しい横文字が飛び交っているが、こんな私にとってパソコンなどという代物(しろもの)は、いち生涯、縁の無い物だと思っていた。
だから最初は「折角の贈り物だけど孫の為に使って欲しい」と丁重に断ったのだが、指先の運動はボケ防止になるとか、「めぇる」でいつでも話が出来て……とか、何だかんだと言って説得され、結局、ありがたく頂く事にした。
幸いな事に主人も仕事で多少なりともパソコンを使っていたという事で、主人を指南役に、私でもインターネットやメールが出来るくらいにはなった。
「生徒」が一応、一人立ちしたのを見届けると、主人は「人材センター」なる所に登録をし、再び外に出る生活に戻った。
と同時に、私は再び一人で過ごす生活に戻った……。
だが、これまでの生活と違う所が一つだけある。
私の目の前には1台のノートパソコンがある。
そしてその向こうには、インターネットを介して無限とも言える世界が広がっている……。
始めはおっかなびっくり、趣味の園芸や手芸のホームページを覗く程度だったが、段々と操作にも慣れて、掲示板に書き込みをしたり、情報交換をするまでになった。
インターネットの不思議な所は、掲示板に集うそれぞれがお互いに名前も、顔も、住んでいる所も分からないままに交流しているという点だ。
機械オンチでインターネットの「イ」の字も知らずに過ごしてきた私には、最初はこの感覚に馴染めずにいた。
でも今ではすっかり住人の一人として受け入れられ、「匿名希望」という名前を改め「銀子」というハンドルネームを使用するようになった。
ちなみに「銀子」とは、主人がシルバー人材センターに登録しているところから思い付いた。
ー つ づ く ー