隣の彼が見据えていたのは真新しい墓石でした。横には彼が呼んだ女性の名前があります。ここにあの人が眠っている…。そう思うと、私はいてもたってもいられなくなりました。「帰る。」
「どうやって?」
「どうやってでもよ。だって私には関係ない。亮はここに来る時にたまたま私を見つけたから連れてきた。それだけのことでしょ?そんなことしたって、私はますます惨めになるだけじゃないっ!!」
人気がないことをいいことに、渾身の力を込めて叫びました。
「お前を探してたんだ。」
「じゃあ尚更ガッカリしたでしょうね!男とホテルにいたなん……。」
「………。」
両肩を抱かれた途端、私は強く口付けられました。
「………。」
「………。」
お互い何も言えず、黙り込んでしまいました。しばらく沈黙が続きましたが、私達は何故かお互いが落ち着き始めていることを感じていました。
「唯……。」
さっきなら目も合わせられなかったけど、今は素直に彼の顔を見れました。
「これ。」
彼がポケットからカサカサと紙切れを出しました。
「何?」
広げると、手紙と言うより、走り書きに近い感じでした。
亮へ。このままあなたを残して逝く事は辛いけど、私がいなくなった後は、四年間だけ私のことを覚えていて。彼女ができてもいい。その日だけ私を思っていてほしい。そして五年たったら、本当に大事に思う人を連れてきて私に見せて。あなたの幸せそうな顔を見て、私は安心して眠れるんだから。私は…………。」
その後は読めなくなっていました。涙が滲んでしまったようにぼやけているのです。
「そういうことで…、今日はお前をここに連れてきたんだ。」
つまり、今日が真紀さんの命日であり、五年を経過した日であり…。
「唯……これ。はめてくれるか?」
彼が私にすべてを話してくれた日であり…。
「………はい。」
彼からシルバーの指輪をもらった日でした。
「ごめんな。嫌な思いさせてるのわかってたのに…何も言わなくてさ。」
「………。」
「許してくれるかな。」
「………。」
何も言えずに泣きじゃくる私は何も答えられません。日は暮れ始めて夜が私達を隠します。
「私…酷いことしたのよ?」
「知ってる。」
「また…寂しくなったら浮気するかもしれないよ?」
「しないよ。」
彼は静かに私を抱き締めて力を込めました。
「浮気させない自信がある。幸せにするから。だから…。」