ライチの皮

桜花  2006-11-06投稿
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父は昔から厳しい人だった。私はその厳しさの中で、父なりの優しさを受けてこの年まで育った。
―25歳。
未だ、彼氏はいた事がない。

先日、父の若い部下が「出張土産です」と、冷凍のライチを持って家を訪ねた。
彼は私に笑いかけ、私は会釈し、愛想なく奥に引っ込んだ。
彼は一時間ばかりで帰って行った。
父に気づかれぬよう、窓から彼の背中を見送った。

夜中、父が寝た後で冷凍庫からライチをひと粒つまみ出し、部屋に持ち帰った。無意味に机の上でライチを転がしながら不意に、
『私みたいだ…』と思った。
硬い皮に包まれて、おおよそ見た目じゃ中身が知れないこの果物。中身は嫌という程甘く匂う乳白色の果実だけれど、それを完璧なまでに守る弾力のある皮に包まれている。
早くこの硬い皮を剥かなくちゃ、誰も気づかないうちに私は腐ってしまう。
そう頭に浮かんだ私は、ライチの皮を剥き、ゴミ箱に捨てた。

美味しい果実は皮の下。一皮剥けてはじめて味を知るのだ。
一番はじめにライチを食べた人は勇気があるな。この皮を剥いた勇気…。

私はライチに似ている。
いい意味でも悪い意味でも、
私はライチに似ている。



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