ー 第 3 回 ー
私は自分の正体・素性がバレないようにと必死だった。
それまで聴かなかった速いテンポの音楽を聴いたり、観た事も無かった若者向けの恋愛ドラマやバラエティ番組を観て情報を収集し、「彼」と話を合わせようとした。
突然に趣味・趣向が変わった私を見て主人が怪しむかとも思ったが、「俺の事は気にせずに、お前ものびのびと自由にやってくれ」との事だった。
正直、妻の事など気にも留めないのか、と一抹の不安を感じなくもなかったが、でも今はその方がありがたかった。
更に半年ほどが過ぎた頃、彼からのメールの中に「お会いしませんか」という一文を見つけた。
…嫌われる事への心配や恐怖よりも、溢れ出る想いの方が幾倍も強かった。
お返事するまでに一週間という時間を頂戴したが、私は彼に「こちらこそ、宜しくお願いします」との旨を返信した。
期日と場所を決め、お互いの目印として彼はタンポポ色、つまり黄色のネクタイを締め、私は「銀子」の名にちなんでシルバーのイヤリングとネックレスを着けていく事になった。
会う事を決心した時、もう一つ決意した事がある。
それは私自身が完全に「銀子」になる事、…つまり、「整形」する事を、私は決意した……。
その後の事などは、もう、どうでも良かった。
ただ彼の為に、ただその一時(いっとき)の為に……!
偶然にも、主人も時を同じくして一週間、人材センターで知り合った友人同士で旅行に出掛けるという。
私は主人を送り出すと急いで通帳を取り出し、期待と不安と、…そしてほんの少しの後ろめたさを感じながら病院へと向かった……。
そうして向かえた当日。
流石に女学生と言うには苦しい言い訳かもしれない。
それでも、大金を払った甲斐もあって20代後半くらいの「若さ」は取り戻せたと思う。
ー つ づ く ー