その日――。私、中川則子が自宅に帰宅したときには、既に夜中の十一時を回っていた。毎週木曜日は予備校なので何時も帰りが遅い。
来年の受験に備え昨年の夏休みから隣町にある某大手予備校に通い始めて早八ヶ月。国立理系志望の私にとっては致命的ともいうべき数学の成績も、ここ最近になり、ようやく向上してきた。
つい先日行われた模擬試験では今までにないほどよくできたといっても過言ではない。実際に答え合わせをしてみるとそれは立証された。このことを塾講師の一人に報告すると、「このままいけば現在の志望校よりもワンランクないし2ランク上の大学に行けるかも」といわれた。
「例えば、何処です」
私が訪ねると、塾講師は迷うことなく一つの大学を挙げた。
『東大』
夕食をすませ、風呂に入り、自室のベッドにもぐりこんだ。私はほくそ笑んだ。
「全ては完ぺきだ」
日課としている朝の勉強をするため目覚まし時計を五時にセットする。今のように努力をして、現役で東大理?類に合格。留年しないで医師の国家資格をゲット。
私は自身が医者になった姿を想像した。意識していなくても自然と顔がゆるむ。