「一か八かって…この無責任野郎!」
「何ぃ!ならお前が策を出してみろ!」
「だからケンカはやめてよ〜!」
本日何度目か分からない言い争い。一番呆れているのは本人達であろう。
「…失敗したらテメェのせいだぞ」
文句を言いつつもコウはテシの指示通りにミジハを積み並べていった。特に良い策も出せずに文句しか言えない自分自身が何だか惨めだった。
「よし…積み終わったな。テチ、電気砲の出力を最大にしてこの辺りに撃ち込んでくれ」
テシが指示を出す。
「よぉし…行くよ!」
テチは小さな体で電気砲のレバーを思いきり引き、並べたミジハの列の端に撃ち込んだ。
雷のような音と共に、一気にミジハを介して液に電気が流れる。液は鈍い破裂音をたててその形を崩していった。
「やった!!」
ガッツポーズを取るテシ。
「見たか?コウ殿」
自慢気にテシはコウの方を向いた。その目は優越感に溢れている。
「…おめでとう」
唇の端を噛み、コウは皮肉をたっぷり込めた口調で言ってやった。悔しさでもう一度死んでしまいそうだった。
「あれ…様子が変だよ?」
テチが崩れかかった液の上部を指差す。上部で液の一部が触手の様に変形して、緑とも青ともつかない異様な色の光を発している。
テシは一瞬でそれが何かを悟った。
「あれはもしや毒ガスの噴射口…最後の力で毒ガスを撒き散らすつもりか!」
「ウソぉ!!」
三人の顔色が一変した。
「兄ちゃん!もう一発撃つよ!」
テチが再び構える。
「待て!打った衝撃で撒き散らされたら…」
テシの顔を冷や汗が伝う。根拠は無いが自分の作戦には自信があった。いつだってテシは失敗した事など無かった。それがエングの皇太子である自分の誇りであった。
「テシ!何とかならねーのかよ!」
コウがテシに追い討ちをかける。テシは返事もせず、目をかっと広げたまま液を見つめていた。
「コウ…どうしよう〜!」
「くそっ…」
コウは必死に考えた。とは言ってもコウの平凡な知能指数じゃ考えられる事なんて限られている。その間にも液は不気味にうごめいていて、いつ毒ガスを吹き出してもおかしくない状況だ。
「おいテシ!とりあえず巻き散らされなければいいんだな!?」
テシはコウの問いかけに応じないままだった。
「……“一か八か”だ」
そう呟くと、コウは片翼を使って飛んだ。