【序章】
戦争…。
失われた命…。
世界を引き裂く焔…。
そして、闘いの業火へ…。
蒼き竜に育てられし、少年。
世界を救う【救世主】、またの名を【竜の子】と呼ばれ、歴史にその名を刻む。
【10年前】
騎士団長直属の大隊が末路の地へと進軍を続けていた。神託が下ったのである。
かの地に救世主あり、と。
その為に進軍していた。
騎士団長オローは大隊を率きながらも未解の渓谷地帯での、【救世主】の捜索は困難を極めた。【直轄区】という(封印騎士団が守護する地区)補給地を間近に持ちながらも。
渓谷の奥へと続く道は狭く、複雑に入り組んでいた。
また、しばしば発生する雷と落石が行く手を阻んだ。
それでもオローは諦めなかった。部下に命じて渓谷の地形図を作らせ、何ヵ所かの崖を切り崩して駐屯地を仮設した。落石が多発する場所では飛空部隊を投入し、空からの探索を行った。
探索隊はじりじりと、しかし確実に渓谷奥地へと進んでいった。
やがて彼らは、渓谷最深部に何者かの手が加わった場所を発見する。後に【忘れられた遺跡】と呼ばれるようになるその一帯には、何らかの建造物と思われる土台や、水路の跡が残されていた。
また、
渓谷と名がつきながらこの地には極端に少なかった水場もそこにあった。
水場の近くに陣を張り、付近の捜索に乗り出そうとしていたときだった。
彼らは、獣でも魔物でもない咆哮を聞いた。疾風が舞い降り、兵士たちを薙ぎ払った。
いや、
風ではなく翼だった。
蒼い鱗に覆われた翼と鋭い鉤爪。
「ドラゴン……」
怯えた声で兵士の一人がつぶやく。が、
すぐにそれは咆哮でかき消された。
悲鳴を上げて、兵士たちが逃げ惑う。
ドラゴンは翼を広げ、大きく上体を反らした。
炎を吐こうとしている。ドラゴンを間近に見たことがない者にさえ、その動作は明らかだった。この場にいる者すべてを焼き払おうとしている。
棲み処を荒らされた怒りか、或いは人間そのものを嫌っているのか…。不意に、ドラゴンの動きが止まった。ゆっくりと翼が畳まれる。次の瞬間、誰もが目を疑った。
子供がいた。
陽光を受けて蒼く輝く竜の背に乗っているのは、紛れもなく人間の子供だった。
「神託は本当だったか…」
オローは呟いた。
続