私の名前がまだ「如月葵」だった時、
記憶に残っているのは
大きな衝撃と、キラキラ光るガラスの破片と、
青い、青い、空。だけだった。
一瞬だった。
これまで築いて来た彼らの毎日を
一瞬にして失うのは。
本当に簡単で、本当に残酷だった。
「葵」
呼ばれて、振り返る。
「ん?」
そこには、彼氏の宮崎愁が立っていた。
「何考えてた?」
ちょっと笑って言う。
「…如月葵だったときのことだよ。」
ちょっと笑い返して言う。
如月という言葉を聞いた瞬間、愁の表情が
少し曇った。
「…5年前…か。」
愁がつぶやく。
愁と二人で、
小さなベランダに出る。
外の空気を思いっきり吸い込んで、吐き出した。
空を見上げた。
雲ひとつ無い、快晴。
5年前の今日。
あの日も、こんなにも青い空だった。
少し憎くなるくらい、青い空だった。