「ポーッ」
予定より三十分遅れて汽車がきた
「やーっ。やっときたか」
「お父さん、アメ買ってね」
私は辺りの人のやりとりに耳を傾けながら、駅員に切符を渡す
『カチリ』
奇妙な歯形に切り取られたそれは、再び、私の手の中に
席を見つけて腰を下ろす
幸い私は窓際だったので、映写機のように
移り変わる景色を見られるので嬉しかった
まだ汽車は動かない
私はこの短い時間がとても好きだ
旅立つ前のワクワク感や、
人々が乗り込んでくるざわめき感、
慌ただしさとで作り上げられたこの空間は、
普段の私生活ではここでしか見ることができないから、
何か特別なもののように感じる