俺ん家の反対方向を指差す。
その方面は普段ほとんど行ったことがない。ただの住宅街で、だいぶ先に違うコンビニがあるくらいだ。
「何してんだあいつ・・・。」
思わず毒づく。まぁとりあえずここまで何事もなく来たらしいことにホッとしたけど。
「・・ありがとぅ。」
呟いてから次の目的地へと向かう。
こんなに走ったの久しぶりだ。
痛む脇腹を押さえながらも速度は下げない。
一分でも一秒でも早く、顔が見たい。声が聞きたい。この腕に抱き締めたい。
5年も付き合ってるのに、たいしたけんかじゃないのに、ただいつもより帰りがおそいだけでこんな気持ちになるなんて―\r
俺もそうとう惚れてる・・・
ずっと全力で走り続けたせいで足が限界みたいだ。もつれて転びそうになり、危うく立ち止まる。壁に片手をついてうつむいた瞬間―――\r
歌が聴こえた。
高く澄んだソプラノでどこか頼りない音程。
愛だの恋だの甘ったるい歌詞はあいつのお気に入りだ。
「マコ・・・。」
そのままの体勢でただ前だけを見ていると、向こうから小さな人影が近付いてきた。
手にした袋を振り回しながら歌う影が、こちらに気付き立ち止まる。