一度は来てみたいと思っていた。自分のこの思いや感情は他の第三者から見れば異常なのか、また病的なものなのか、 知りたいと思った。私は部屋を見渡した。それほど広くない。淡いクリームに似た壁に囲まれている。「こんなもんなのかな?」つぶやく声がでた。心を落ち着けるためなのか微かに川の流れの音が聞こえる。不意にドアが開き30代の女性が現れた。先程、受け付けで会った人だ…。「もうすぐ先生がみえます。もう少しお待ち下さいね…。」こちらの気持ちが解るのか、穏やかな笑顔と口調だ。「わかりました。」軽くうなずき答えると彼女は静かに出ていった。ここに来たことが本当に自分自身の解決になるのだろうか?すべてを打ち明ければ心の闇は晴れるのか?その先は……?その時、「お待たせいたしました。」白いシャツに黒のスラックス。年は40代か 50代。年令不詳に見えるタイプみたいだ。「待たせて申し訳ありません。はじめまして、福島と申します。」名刺には病院の名とカウンセラーの名前が書かれていた。穏やかな微笑み、職業柄だろう。この人に私の想いを託すことになるのか……。「今日は初日なので深い本題は辞めておきましょう、そうですね…私を少し知っていただき貴方のことを少し教えてください。なんでもいいんです。趣味や家族、性格や仕事の事、なんでもいいですよ〜。」緊張していたから気を使っているのか、会話の中で私を知りたいのかわからないが先生は楽しげに話し始めた。「僕は、カウンセラーですが自分のことは無頓着です。結婚不向きタイプですね。休みの日は釣りに行きます。釣りはしますか?」「子供の頃は両親が釣りが好きだったので、よく行きました。今でも好きですが、車が運転できないので連れて行ってくれる人がいれば行きます」「じゃあ 今度行きませんか?いやぁ〜釣りはいいですよ〜あっ!これではナンパみたいに聞こえますか?すみません。」ペコペコ謝る姿に緊張が少し解れた。どこの病院も先生とつく人は傲慢さがあるが この人は違うタイプらしい。この後、本当に取り留めない世間話をし、私は最後にこんな質問をした。「先生はここに来る人達をどう思いますか?」ほんの一瞬 真顔になり先生は答えた。「いろんな方がみえます。みんな闇はあります。来ることが恥ずかしい事とは思わないでください。少しでも話すことで何かが変わるなら、それでいいと僕は思います。」優しい笑顔だった。