喉の渇きと空腹を満たす為、ゼノスはベルムの街を歩いていた。
ベルム……交易都市ベルムと呼ばれ、海に面し北のフォウオール帝国と南のティノア神聖帝国の中間に位置し、陸路・海路ともに貿易の中継地点として栄え様々な商品が溢れかえっている。
現在は、街を仕切っている商人ギルドが両国に献金をし、自治中立都市として認められている。
しばらく歩いていると、うまそうな料理の匂いがしてきて、酒場の看板が視界に入ってきた。
(ここにするか。)
酒場のドアを開け、中に入ると、
「いらっしゃいませ!」
数人の元気な女の声が出迎える。
ざっと見回すと、昼時を少し過ぎているが、店内は客で賑いウェイトレスが料理を運び、オーダーを聞くのに忙しそうにしていた。
窓際の隅に空いている席を見つけそこに座る。ウェイトレスを呼び、メニューを見ながら肉料理とサラダと酒を注文するとウェイトレスは足早に去って行く。
注文したものを待っていると
『ガシャーン!』
店内のどこかで音が聞こえてきた。客達も何だ?どうした?といった感じで音のした方へ首を向け、ゼノスもそちらを向く。
床には見事にひっくり反りぶちまけられた料理。近くに座っていたガタイはいいが頭の悪そうな男にもその一部がかかっていた。
「オイ!なにしやがる!」
この服は高かったのなんだのと怒鳴り散らし、被害の無かった周りにいた子分らしき男達まで怒鳴り、ウェイトレスはひたすら謝り続けていた。
「そのへんにしろ失敗面。飯がまずくなろだろ」
ゼノスは席を離れ、いつの間にか男の後ろに立っていた。
「何だと?誰が失敗面だ!」
「お前以外誰がいるんだよ…。鏡いるか?」
やりとりを聞いていた客の中からクスクスと笑い声がこぼれる。
「て、てめぇ!表出ろ!」
顔を真っ赤にして激昂した男はバンッ!っと勢いよくドアを開け、子分と一緒に外へ出る。先ほどのウェイトレスは唖然とした顔。やれやれ、とゼノスもそれに続く。
外に出ると、すでに野次馬達が輪を作り、酒場や周辺の店の窓からは客や店員の顔が覗く。
「お前、生きて帰れるなんて思うなよ」
剣を鞘から抜き切っ先をゼノスへ向ける。
「俺に剣を向けたんだ。お前の方こそ覚悟しろよ」
男と適度な間を置き、体を斜めにし拳を目線の高さに構える。
「素手だと!?どこまでも舐めた奴だ、死ね!」
男はゼノス目掛けて一直線に走ってきた。