ー 最 終 回 ー
待ち合わせの時間にはきっちり5分、遅れて行った。
若者向けの雑誌にそのような記述を見つけたからだ。
…「彼」は、そこにいた……。
建物の影に入っていて顔はハッキリ見えなかったが、遠目からでも黄色いネクタイは良く目立っていた。
いきなり正面から声を掛けるのもためらわれたので、私は周りこんで彼の背後から肩をぽんぽんと2回、軽く叩いた。
「あっ……! ぎ、銀子さん……ですか?」
振り向いたその顔は私が想像していたような今風の若者ではなく、…そう、例えて言うならどことなく出逢った頃の主人を思わせるような昔風の顔立ちだった。
当然の事ながらそれは私にも言える事であり、一瞬、彼も驚いた様子ではあったが、でも彼はそんな事は決してクチには出さず、私を一人の女性として扱ってくれた。
その日、
私は、
長い間忘れていた
「 と き め き 」
という感情を思い出した……。
インターネットでの再会を約束し、夜空に浮かぶ月を見ながら私は家路についた。
何の変哲も無い、見慣れた家の扉。
だが、この扉の向こうには、逃れようのない「現実」が待っている。
主人も旅行から帰って来ているのだろうか、鍵は掛かっていなかった。
「た……ただいま……」
「おかえり」
主人はろくに着替えもせず、テレビを見ながら背中越しに私に応えた。
「あ……あのね……、私、あなたに……」
言い掛けた私の言葉を主人が遮った。
「おかえり。『銀子』さん」
「!? ど、どうしてその名前を…………!?」
振 り 返 っ た 主 人 の 顔 は 昔 風 の 若 者 よ ろ し く 、そ の 胸 元 で タ ン ポ ポ 色 の ネ ク タ イ が 良 く 目 立 っ て い た ・・・・・・ 。
ー 幕 ー