男はゼノスの肩口に狙いを定め、剣を振り下ろす。それを右に飛んで避け、追撃の払い斬りをバックステップで鮮やかにかわす。
男の体が開いたところにゼノスは地を蹴り一気に懐に潜り込む。
拳の届く距離。
ニヤッとゼノスが笑う。
男の眼が見ひかれる。
ボディに拳が突き刺さり、体がくの字に折れ曲がる。倒れることを許さないアッパーが顎を直撃し強引に立たせる。
ゼノスは回転し遠心力を加えたとどめの上段回し蹴りが男の顔面にきれいに炸裂した。
男は吹っ飛びながら酒場の窓ガラスをぶち破り、けたたましい音とともに店内へと再び戻っていった。
子分達は驚愕の表情で店内から生きているかどうかも怪しいボロボロになった男を担ぎ出し、
「お、覚えてやがれ!」どもりながらも一応の決まり文句を吐き、引き上げる。
「いちいち覚えてる訳ないだろ」
少しの息の乱れも無く終わらせたゼノス。あまりの出来ごとに呆気に取られていた野次馬達は、一瞬間を置いて歓声を上げた。
そこへ、絡まれていたあのウェイトレスがやってきた。
「あの…助けていただいてありがとうございました!」
深々と礼をする。
「いや、いい。あんたも運が悪かったな。それよりも店を壊したからこれ、修理代だ。取っといてくれ」
革袋から適当に金貨を取り出したが、それを拒否するウェイトレスに強引に渡すと、
「どうした。何があった?」
野次馬の輪の外から街の警備隊の声が聞こえてくる。
ここまで騒ぎを大きくし、その当人がこの場にいれば面倒なことになるのは明白だろう。そう判断したゼノスは警備隊に顔を見られる前にさっさと場所を移動した。
そして、飯を食い損ねたと気付いたのはそれからしばらくしてからだった。
食べるものを提供してくれる場所を探しているうちに空腹の度合が進行し、一刻も早くそれを満たしたいゼノスに誰かが声をかけてきた。
「やっと見つけたわ。気付いたらいなくなってたから、ずっと探してたんだから」
振返ると見ず知らずの女-細身のスラッとしたスタイルに動きやすそうな軽装でショートの髪、化粧は薄いが間違いなく美人といえるだろう-
「私の名前はフォルセティ=ヴァール。セティって呼ばれてるわ。実はあなたに頼みたいことがあるんだけど?」
空腹によるイライラを押さえ込み、
「まぁ、なんだ…とりあえず飯を食わしてくれ」
話はそれからだ