17回忌が終わったあと、久しぶりに思い出して、香里の遺書を開いた。緑の葉の模様の便箋に、綺麗な字で書き綴られている。
多分まだ、書ける力が残っていた頃に書いたものだろう。
相馬一樹様
この遺書を読んでいるということは、今はもう、私はこの世にいないことでしょう。
私には身内もなく、親戚もろくにいないし、頼りにしてきたのは、キヨさんだけでした。
そんな中、あなたがあの湖に現れ、恋に落ちてから奇跡の連続でしたね。
だって、理想の人が一樹で、目の前に現れただけでも奇跡の瞬間でした。不器用な誘い方しか出来ない私を、一樹は快く受け入れてくれて、本当にありがとう。
二度目に病院で告知された時もあなたは、一緒に泣いてくれました。奇跡の雪が降ったときも、毎日熱心に空に向かってお願いしてくれていたことも、私知ってたの、本当に願いが通じたよね・・・こんなことがあるんだと、嬉しくてただ嬉しくて仕方ありませんでした。
本当はあなたの成長も見たかったけれど、それは岬ちゃんにバトンタッチしていきます。
あなたと過ごした日々の全てが、私には宝物、輝ける日々をありがとう。
最愛の人、これからも輝き続けてください。私はあの世から、あなたをいつも見守っています。
最後の恋人で舞い降りた天使の一樹へ
葛巻香里より
人の命は限りがあるから美しい、命の長さが問題ではなくいかに愛ある人生を歩んだかである。
そして、死は医療の敗北ではなく、自然なことのはずである。と俺は思う。
またいつか、生まれ変わって、最高の恋をしようよ香里、俺はそれまで身も心も磨き続けるよ。
この遺書を読むたびに、涙があふれ出ていた。
終わり