会社帰り、何となく真っ直ぐ家に帰りたくなくて、時間つぶしに本屋に立ち寄った。
本屋なんて何ヶ月ぶりだろうか。何気に平積になったリリーフランキーのベストセラーを手に取り、売れてるのかと、読者の感想が書かれた帯に目をやった。
一つの文章が目にとまり、その瞬間、あの頃の僕とあの人を蘇らした。
家に着くと、お帰りなさいと妻と義母に迎えられ、ただいまと言い、そのまま目も合わさず、足早に直接寝室へ向かい、鞄の中の買いたての本に手をやった。
この一年、転職や結婚問題で忙しく、忘れていた、いや忘れようとしていたあの人をハッキリ思い出した。
“大事な人へのギフトにしたい”
帯に書かれた言葉と同じく、僕はあの人に幾度となく本を贈った。
我ながら自分勝手だと思うが、あの人へのプレゼントは、いつも自分の好きな本だった。
「贈られた物以上に、私の事を思い考えながら選んでくれた時間が嬉しい。ありがとう」
彼女はそう言って僕からのプレゼントを受け取った。
思えば、あれがあの人に贈った初めてのプレゼントだった。
1000円程のクリスマスプレゼント。手渡した時、あの人が何と言うかが楽しみだった。ただ、純粋に僕はあの人に魅かれていた。