永遠(とわ)の夢 3

朝倉令  2006-11-11投稿
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その時、不意に気付いた事がある。


僕には、今、目の前にいる女性に関する予備知識が何ひとつ無いのだ。



「あの〜、今更だけど君の名前教えてくれる?」


「あ、…そうね。
夢では声が届かなかったのよね、言われてみれば。

私は静(しずか)」


「名字は?」


「今生は葛城(かつらぎ)を名乗っているけど」


「今生(こんじょう)?」

「ええ。慎二さんも前世は違う名前だったわよ?」



「そうなのか…?」





怪奇現象や輪廻転生等をついぞ信じた事のない僕にとって、それは俄かに理解し難いものである。






「そもそも私たちは夫婦だったの。
まだ、鎌倉幕府のある時代よ。

当時漁師だったあなたは、ある日誤って人魚を網に掛けてしまった。

その日は他に何も捕れず、結局その人魚だけ人目を忍びながら家に持ち帰ったのよ。

ちょうど海の荒れる時期、日々の糧を得るだけで精一杯だった私達は、その人魚を、………… 食べた」


「人魚を食ったァ?」




静はコクッと無言で頷いた。



今の僕には、取り敢えず彼女の話を聞く事しか能がない。



重苦しい沈黙が続いた後、静の顔つきに少しずつ柔らかみが見えてきた。



『ふぅー‥っ』と大きくため息をついた彼女は、再び語り手に戻っていった。









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