「どう?ゼノス。このお店おいしいでしょ」
紅茶を飲み、ゼノスに言った。
「あぁ、悪くないな。だが、」
豪勢に盛り付けられた鳥肉の料理を食べながら、
「だが?」
「酒を置いてないのは駄目だ」
食べながら器用に答える。
「まだ明るいわよ?」
「明るくても、一仕事終えた後は酒だ」
「あら、そうなの。ごめんなさい」
「いいさ。料理がうまいからな」
結構な量があったが、それを完食したゼノスはコーヒーを注文した。
「一仕事って、さっきのあれ?」
さっきのあれとは、酒場での一件を指しているのだろう。
「なんだ、あそこにいたのか。いや、あんなのは仕事じゃない。気に入らなかったからやったまでだ。仕事はこの街までの商人の護衛だった」
運ばれてきた香ばしい香りのブラックコーヒーを口に含み、心地よい苦みが舌に残る。
一息ついたところで、
「それで、頼みたいことって?」
すると、セティはゼノスに顔を近づけ小声で、
「ある人物の護衛なんだけど、エクネ=モイトーラって知ってる?」
ゼノスの顔つきが変わる。
「知ってるも何も、エクネって商人ギルドを取り仕切ってる幹部の一人じゃないか」
商人ギルドは最終決定権を持つ三人の幹部が頂点に存在し、この三人が商人ギルド、ひいてはベルムを支配していると言ってもよかった。
「どうして、そんな大物の護衛を俺なんかが?」
「さあ?私はただの紹介屋だから。強い奴を紹介してくれ、とだけしか聞いてないの。街を歩いていたら酒場の一件に出くわして、ただものじゃないと思ったからスカウトに来ってわけ。もし、引き受けてくれるなら指定した日時にここにきて。そこで具体的な内容が聞けるらしいわ」
そう言うと、スッとポケットから地図と日時が書かれたメモをテーブルの上に置く。
少し考え、
「今は他に仕事もはいってないし、行くだけ行ってみるか。気に食わなかったら断ればいいしな」
そう言ってメモを受け取る。
「ありがと。ゼノスならきっとやってくれるわ」
ゼノスがメモをしまったのを確認し、セティは席を立つ。
「じゃあ、まだ他に会う予定の人がいるからもう行くわ。ここの代金は私が払っておくわね。謝礼代わりよ」
「そうか。悪いな」
代金を置いて店を出て行くセティ。
コーヒーを飲み終え、店を出るとすっかり太陽は低くなり、夕焼け色に染められた街には一日の仕事を終えた人々が溢れていた。