嫌味でも皮肉でもない、至極当たり前の言葉をかけられて、アインは微かな違和感を覚えた。が、
今は任務が先である。
「はっ帝国兵殲滅の報告を…」
「そう慌てるな。休む暇もなかったのであろう?ちょうど今し方、神水の塔からの清水が届いたところだ」
見るからに冷たそうな水の入った銅製の杯を受け取りながら、アインはますます面食らう。
ジークに労いの言葉をかけられるなどあり得ないはずだった。
「お前の義父オローも好きだった清水だ。まずは喉を潤すがよい」
言われるままに杯を飲み干す。
実際、よく冷えた水は喉に心地よかった。
「赤の他人でありながら、貴様とオローはよく似ている。ヘドが出そうなほどにな」
アインはまじまじとジークを見る。
悪罵に驚いたのではない。
今さら、そんなものには驚きはしない。
むしろ、労いの言葉こそが不自然なものであったと改めて気付く。
「父代わりというだけで、これほど似るとは。目障りでたまらぬわ」
何が言いたいのかと、詰め寄ろうとした時だった。
突然、
視界が揺れた。
握り締めていたはずの杯が転がり落ちる。
「もう効いてきたのか?弱いな。竜の子ともあろう者が」
ジークがあざ笑う。さっきの水には毒が入っていたのだ。
「この程度ならば、わざわざ余が手を下すまでもなかったか?いやいや、災いの芽は早々に摘んでおくに限る」
視界だけでなく、足元までもが大きく揺れる。
膝が折れた。
とっさに手をついて倒れそうになる上体を支える。が、それすらも危うい。
「オローは竜眼の男と対峙するまで持ちこたえたというのに。その息子はこの程度か?」
アインは必死で顔を上げた。
(竜眼の男?持ちこたえた?)
ジークがゆっくりと剣を抜くのが見える。
「まぁ、いずれにしても愚か者よ。差し出された杯を疑いもせずに飲み干すなど」
アインの義父オローが死んだのは三年前、封印の塔襲撃事件にはこんな裏があったのか。出陣しようとしていたオローにジークは毒の水を飲ませた。その結果、オローはまともに立っていられぬ状態で敵に襲われ、斬殺された…。
頭に血が上るのを感じた。全身を突き破るのではないかと思う程の怒り。
「……貴様!!」
アインの体が青白い光を放っていた。
続