その日は朝方から雨だった。
太一は目玉焼きをパンの上に乗せると、ほとんど一口でそれを頬張る。
「ほな、行ってきまぁす!」
勢いよく玄関を飛び出し、太一は学校へと向かった。
公立の進学校に通う彼は、大学受験を間近に控えていた。
「おはよっ」
「おはよー!今日模試の結果出るんやってね」
「憂鬱やな。あっ先生、おはようございまーす!」
学校に着くなり朝の慌ただしさが次々に教室へと吸い込まれていく。
一限目が始まってすぐ、先月行われた模擬試験の結果が配られた。
太一はそれに目を見張った。
(第一志望、Dランクか…)
太一はすぐさま用紙を鞄にしまい込んだ。このところ成績が芳しくない。
母子家庭に育った太一は、将来少しでも家族を楽にさせたいという思いがあった。
「結果を見てみんなそれぞれに思うところがあるだろう。本試験の日がもう近い。体調管理も念頭において頑張るように」
月並みな台詞を並べたてると、教師は授業の内容に入った。
(来年の春には俺、何しとるんかな…)
太一はふとそんなことを思った。弱腰になっていたのである。
(志望校のランク落とすかな…)
このように考えだすものだから無論、授業に身が入らない。
三限目の中ほどのことだった。
いきなり教室のドアがガラリと開けられた。
「櫛森、櫛森太一くんはおるか?」
見たことのない人物に自分の名前を呼ばれ、太一はぎょっとした。
この学校の者なのだろうが、その声の響きにはどこか不吉な予感があった。
「はい、僕ですが…」
太一はおそるおそる手を挙げた。
「お母さんから電話があってな、すぐ帰ってくるようにって」
続く