タカシは小さい頃から「人のためになる人間になれ」と言われ続けてきた。
そんなタカシは親の薦め通りの大学に入学し、親の薦め通りの銀行に内定した。
就職を控えたタカシは友人と卒業旅行に出かけ、南の島で小さな小屋を見つけた・・・。
「FREESTYLE◎PRESENT」と書かれた看板を一瞥し、恐る恐る重いドアを開く。
カラーン!昔の喫茶店のような音を立てて響く鐘、中にはTシャツにタオルを頭に縛った店員がタバコをふかしている。小さい店の中にはガラスケースが1つ置かれているだけであった。
「いらっしゃい」店員は作業をしながら目を合わせずに言った。
「あのー・・・、この店は何を売ってるんですか?」
ガラスケースの中にはプラスチックの塊のようなモノが何個も置かれているだけで、それを削る音だけが響いている。
「物語だよ、物語のある生活を売ってる。」無愛想に応える店員。
「物語?本とかは見あたらないんですが・・・」
少し臆病なタカシは何とか声をふり絞って聞いてみた。
「言葉だ、俺は言葉を売っている。自分を見失わないように、大切な言葉を彫って売ってるんだ」
初めてタカシと目を合わせた店員の目は澄み切っていた。
金縛りにあったような感覚を覚え、その目に吸い込まれそうになったタカシは
「ぼ、ぼくにも売ってもらえるんですか?」そう言っていた。
「もちろんだ、心にある大切な言葉はあるのか?」
そう聞く店員に頭のなかで「大切な言葉?」と繰り返して出てきたのが「人のためになる人間になる」だった。そう、オヤジの口癖だった・・・
「OK!ちょっと待ってろ」そう言われたタカシはその場で20分ぐらい立ったまま、ドリルがプラスティックを削る音を聞いていた。
「あいよ!」
店員の手から文字の刻まれたプラスティックを受け取った。
ストラップ物語(中)へ続く